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漫画家「いましろたかし」氏の初単行本で短編集。
当時1986年位に兄が交通事故で入院し見舞に行った病室に置いてあった「ビジネスジャンプ」に掲載されていた。
同じ時期に北海道の生んだ偉大なる漫画家「はた万次郎」画伯の「青春絵日記」も「ビジネスジャンプ」に連載しておりこの二人の漫画家のインパクトは俺の中に今も根深く刻まれている。

基本1話完結。
どこかに居そうな人々の日常。登場人物達の不器用ながら真面目そして空回りに活きる様子を描く。手塚治虫のに代表される「スターシステム」を採用しており同じ顔のキャラが設定や時代等を変え何度も出てくる。単行本は「ハーツ&マインズ」が全3巻。続刊の「ザ・ライトスタッフ」が全2巻で発売された。

もう大好きな作品だ。
「ギャグ漫画」に部類されるんだろうけど個人的に「切ない日常漫画」だと思ってる。
作者の「いましろたかし」氏は3巻のあとがきで「何か緊張感の漂うギャグを表現したい」と記しているが、その空気感、いたたまれなさがビシビシと伝わってくる。
勿論描かれるギャグには笑うし受けもした。だけど、ちょっと違うんだ。
その描かれる「ギャグ」は不器用な相手を見下した時に起こる笑いなのかもしれない。
「哀しい笑い」とでも言えば良いのだろうか。
それは俺達の生きている直ぐ側でも起こる現実の出来事でもあるんだ。

なんでこれを「いましろたかし」は描こうとしたのか。天才だ。
当時はバブル真っ只中。なのにあえて都会の片隅で生き抜く人々を切り取り描く。
どうしょうもなく全て赤裸々に。
短編ドキュメンタリー映画にも勝るとも劣らないと俺は思っている。(この漫画はフィクションだけど)

1986年当時から今に続く現代日本の姿を浮き彫りにしているを見て取れる。
今のに生きる方が身につまされる場面が多いはずだ。悲しいかな俺もそうだよ。
数年ぶりに読み返したけど当時より「来る」ものがある。
本質は所詮変わらないのかもしれない。
作者は過去に「オリジナリティの有るものを描きたい」と初期作品群を指してインタビューに答えているが凄まじい程の「いましろたかし」にしか描けないオリジナルの固まりだらけの作品である。

1つの話のページ数は少ない。
ちょっと他人の人生をのぞき見た感じとでも言おうか。

クーラーの効きが悪い感じな都会の人間模様、上手くいかない毎日、たまんないよね。
正直者が馬鹿を見る世の中、でも声を出して叫ばず心に秘めるしか無い。
俯いてる時自分の履いてる靴のつま先辺りをじっくり観察した事ある?
普段バカにしているアイツは大人しいけど人は見かけによらないんだぜ?
見下す前にお前、アイツ以上の熱いモノ持ってんのか?

「ハーツ&マインズ」最終話のタイトル「Hearts and Minds」
同名タイトルの映画ベトナム戦争のドキュメンタリー映画がある。
1965年アメリカの「リンドン・ジョンソン大統領」が「ベトナム派兵は進めなければならないが勝利の行方はベトナム人の意欲(ハーツ)と気質(マインズ)次第だ」と演説する。映画の方はその演説からタイトルを付けている。

この漫画の最終話、複数回主人公として登場する人物の一人「山下」が貯めた小銭を集めて夏の暑い中弁当屋に「アジフライ弁当」を買いに行く。
その途中にこれまで作中に出てきた人々のその後の人生や様子が挿入し垣間見れる。そして・・・。
最後はギャグでもなんでもなくヒリつく展開で作品は幕を閉じる。
山下の住む木造2階建てのボロアパート(扉に可愛い兎キャラのウェルカムボード有り)に兄を思う弟以外の人間は今まで訪れたのだろうか?その後彼女は出来たのだろうか?
過去に先程の映画を作者が鑑賞しドキュメンタリー特有の緊張感と登場人物達の「意欲」と「気質」を伝える様子は漫画から否応なく強く目に映る。それは本当に目指したのかも知れないしたまたまかも知れない。

たま~に描かれる「いましろたかし」の描く女の子が凄く可愛いんだ。
基本むさ苦しい野郎が大半の漫画なので、なんだろう・・・居てくれてありがとう的な。
わかるかな~この感じ。凄く魅力的に見えるんだよ。

2008年深夜、単行本2巻に収録されている1つの作品が実写映像化された。
番組は「週間 真木よう子」毎回監督や脚本家が違い
基本女優「真木よう子」を主演に撮影すれば所謂なんでもアリな作りのオムバスドラマ。
なんでもありとはいえ、そこへまさかの短編集から20年程経っての実写化。
タイトルは漫画と同じく「中野の友人」もちろん当時は驚いたし実写化への不安もあった。
 
登場人物「岡田」役に鬼才「井口昇」監督を起用。
この配役は素晴らしい。演技も文句なく「岡田」である。
ドラマの仕様で細かい設定の変更や登場人物の追加あるが、これがまた上手く違和感なく物語の完成度に貢献している。本屋の女性店員役の「小林きな子」の演技と漂う肉感的エロさも「いましろ」さを表現出来ていて最高だ。名も無き女子高生が「真木よう子」なのは個人的にちょっとイメージが違うんだけどそこは目を瞑ろう。でも俺のお気に入りの映像作品になっている。

原作と同じくに岡田の部屋の壁に「AKIRA」のポスターの再現度に何より制作側が原作を愛しているのが溢れ出ている。流石に作者名は「大友克洋」だが。
(どうでも良いが漫画では岡田が通う中野のゲームセンターの入り口に「アフターバーナー」の「ダブルクレイドル筐体」が見えるが現在だとこの再現はかなり厳しい)


読み終えた後に俺は心から登場人物達には大なり小なり報われて欲しいと願う。
「わかった、もう良いだろう。もう良いから誰か。神様いるなら少しだけ差し伸べてやれよ」



切なくて惨めでかっこ悪い。だけど格好いい。爪痕はガッツリ残る。
俺にはそういう漫画だった。