98
「講談社」発行の「ヤングマガジン」にて様々な漫画家が思い入れのある映画作品を読み切り作品化する企画だったと思う。後に纏められて「映画マンガ大全集」というタイトルで単行本化した物。映画のストーリーをそのまま漫画化したのではなく、独自の解釈で再構築している。元ネタを知っていると2度楽しめる内容だ。

今回は「映画マンガ大全集2」の巻末に収録されている「タクシードライバー」を紹介しよう。監督「マーチン・スコセッシ」出演「ロバート・デ・ニーロ」の超有名映画「タクシードライバー」をモチーフにして漫画家「すぎむらしんいち」が読み切り漫画を描いている。
個人的にこの「映画マンガ大全集」の中で一番お気に入りな漫画であり原作の映画も大好きだったりする。

あらすじ
主人公の大学生「成行(なりゆき)」は田舎から東京に出てきて半年。
夜のコンビニバイトの人間関係や大都会の人混みに疲れ鬱屈した思いで過ごしていた。
店に来る客も酔っぱらいや立ち読みで居座る客が多く代わり映えのしない堕落した毎日。
このまま流され掃き溜めに自分もズブズブ埋もれていくのではないか?
「成行」は上京する際に実家の祖父から※「南部十四式」を渡される。
祖父が実際に軍隊で使用してた実銃だ。手入れが行き届いており現在も撃つ事が出来る。東京は怖い処だからと両親に内緒で持たせていた。護身的な意味も含めて「南部十四式」を忍ばせてバイトに向う成行。ゆっくりと事件は起こり始める。

※日本軍独自の8x22mm南部弾(十四年式拳銃実包)を使用する自動式拳銃。装弾数は弾倉8発+薬室1発。(南部十四式wikipediaより)

部屋の安いガラステーブルの下から景色を見上げるコマは心情を表し個人的に秀逸。
「辻仁成」の曲「ガラスの天井」を脳裏に連想させた。
原作映画はタクシーの運転手だが漫画ではコンビニの店員が鬱屈した日常の中で銃という名の「力」を手にする。この着眼点といい再構築ぶりは本当に素晴らしい。日本ではコンビニがカオスな「人間交差点」を浮き彫りにする舞台にぴったりだ。

コンビニエンス=(好都合。便利。また、便利なもの。手間がいらない重宝なもの。※デジタル大辞泉の解説より)

タクシードライバーもサービス業で精神的にも大変な職業だがコンビニも負けてはいない。その手の話を聞くと昨今のコンビニの行き過ぎにも見える多様化はタクシー以上の過酷さかもしれないな。
便利とは言え数々のサービスにワンオペレーションでの対応や店員に横暴な振る舞いを取る客の相手等もう少し賃金が高くても俺は断然良いと思う程だ。都市部の客入りが激しい店舗なんて時給1500円位以上でも十分なんじゃないか?

最近では外国の方が店員の店を非常に目にする。多くを求められた末の割に合わなさから日本人だと避ける仕事なのは解る。何故そういう現状になったのか、流石にこの辺もう少し見直した方がこの先良いんじゃないかと素人の俺でも思うぞ。まぁ元々アチラの物を日本独自の接客マナーなんかを取り入れ作り変えた感じなので海外のコンビとはまた印象が違うんだろうな。中国辺りの留学生の人々は語学や日本文化等を学ぶ為にコンビニバイトを選ぶ事が多いそうだ。留学生の労働時間は決められていて個人経営だとその辺はザルなんだとか。その辺も含め人気らしい。なんとなくアニメ「トランスフォーマー」を見た時の感覚が蘇る。元々「ダイアクロン」的な。(なんだそりゃ)まぁ閑話休題、以前サービス業の経験のある俺は毎度コンビニを利用する際に店員の皆さんには頭が下がる思いだ。

「成行」のアパートから300メートルの所にバイト先のコンビニはある。
夕方5時から翌朝まで働き時給600円。深夜は650円(連載当時)
このバイト選んだ訳は同僚である高校2年生の「吉田今日子」存在があった。
彼女とは21時までの4時間が一緒である。鬱屈した日々の「成行」に気さくに話しかけてくれる。大都会でやり切れない毎日を暮らす中、唯一癒やされるのが「吉田今日子」だった。

あーこういうのに俺は弱い。弱いんだ。秘める想いというか。
この「吉田今日子」が原作映画のサブヒロイン「アイリス(ジョディ・フォスター)」に位置付けされるのかな。限られたページで原作のメインヒロイン「ベッツィー(シビル・シェパード)」の部分をバッサリ削ぎ落としているのは見事。

22時以降スタッフは二人体制だが同僚がほぼ働かないので「成行」一人で対応していた。
同僚に内心ムカつきながらレジの対応をしていると客に「弁当温めますか?って聞かねーのかよ!」と申し出られる。慌てて対応するがその客は捨て台詞を吐いて店を後にする。
この些細なやり取りから物語は加速していく。

先程の22時から一緒に店に出る同僚の男「山本」こいつが働かない。
毎回そうなのでイラつきが募っていたが、「成行」はついに爆発してしまう。
「成行」が「吉田今日子」目当てでこの店でバイトしている事を見抜き指摘されそして「山本」が二人で共謀して「吉田今日子」に手に掛けようと持ちかけてきたからだ。
いつも腰に忍ばせていた「南部十四式」を取り出し「山本」に向けて発泡する。
弾は直接命中しなかったもののシャツの端に空いた穴を見て「山本」はビビりバイト先から逃げ出す。

徹夜明け。初めて銃を撃った興奮に体中に力がみなぎる「成行」
強力な「力」を手にした。怖いものなど無い。
休日、外からはどこかの家族のお昼ご飯を知らせる会話や犬の鳴き声が聞こえてくる。
ありふれた日常空間の中「成行」は祖父から譲られた銃を手にしながら部屋で思いに耽る。
持て余す「力」の矛先をどこで使いどこに向けるか。
漫画内の背景にあるテレビに原作映画「タクシードライバー」で買い取った銃を身につける主人公「トラヴィス」のシーンが映し出されている。まさに同じ状況を描いているのがニクイ。

コンビニの近所で放火事件が多発していた。
新聞でその記事を読みつつ「成行」は犯人に対し侮蔑の意見を感想を漏らす。
「力」を腰元に忍ばせた「成行」は怖いもの知らずとも言えた。
原作映画で「トラヴィス」の独白「夜歩き回る屑はすべて悪だ。奴らを根こそぎ洗い流す雨はいつ降るんだ?」を思い出させるシーンだ。

あの出来事の後「山本」はバイトを辞め「成行」は一人カウンター内で「南部十四式」を弄る。その日の深夜2時20分頃フツフツと沸き起こるイラつきの矛先が店内の客に向けられ様とした時、サイレンをけたたましく鳴らしながら消防車が店の前を何台も通り過ぎる。
少し歩いてすぐの所で放火事件が起こっていた。「成行」も店番を放り出してバイト着のまま現場に駆けつける。日本の密集住宅地帯に次々と火は移り被害は大きくなっていく。野次馬の中に「吉田今日子」を見つけ彼女の家にも火が移り現在炎上している事を聞く。

野次馬の一人が叫ぶ「出たぁ放火魔だぁ!」
暗闇に火炎放射器を持った男が立っている。全身「サバイバルゲーム」の出で立ちで顔にはフルフェイスマスクを付け背中にガスボンベらしき物を背負っている。
「よく聞け豚共!弁当はなぁこーやってあたためんだよぉ!」
そう叫ぶと手短な家や車に炎を放つ。炎はかなりの長さで伸び辺りを炎上させていく。

「成行」の手には対抗出来る「力」があった。
放火魔の男を呼び止め立膝を付き狙いをつけ構える。
マスクと暗闇で「成行」からは解らないが放火魔はあの時のコンビニの店員だと気がついた様だ。そして火炎の発射口を向け構える。
街頭がピンスポットになって暗闇に「成行」を照らし出す演出に痺れる。
西部劇の対峙シーンの様な、日本の日常から外れた状況が現れる。

「力」を放つ。「バン、バン、バン」
現代日本の住宅街に第二次大戦にて使用された銃の発砲音が辺りに鳴り響く。
大げさかも知れないが今の日本の現状を見た英霊達の叫びにも思える。
1発だけ太ももに命中し崩れ落ちる放火魔。撃ち尽くし佇む「成行」そして耳を塞ぎ状況を見つめる「吉田今日子」の表情が印象的だ。

そこへパトカーと警官隊が到着し事件は収束する。
後日新聞記事に放火魔は22歳浪人生火炎放射器を自作の記事があった。
今だと引きこもりやニートなんかが題材にされるんだろうな。

「南部十四式」は警察に没収され「成行」の行動は闇へと葬りさられる。
死傷者54人を出した事件だったがヒーローになれなかった。
「吉田今日子」は田舎の親戚の家に引っ越した。

そんな出来事に構わず世間は社会は勝手に動き始める。
相変わらずコンビニ店員をしている「成行」の前に自衛隊の隊員が買い物に来る。
レジで対応する際背負っている銃に視線が向かう。
銃を撃った時の感じが忘れられない「成行」はバイトを放り出し自衛隊隊員たちのジープに乗り込む。「入隊するぜ」そして晴れやかな顔の「成行」を乗せたジープは走りだして物語は終わる。

同じ「すぎむらしんいち」の漫画「右向け左」の世界に繋がりそうな感じだ。
「右向け左」登場人物の過去シーンで山の中で大便中紙がなく泣きそうになってる処に
茂みから道に迷った自衛隊のレンジャー隊員が現れ葉っぱをほぐしてちり紙代わりにケツを拭く方法を教えるのだがその時の隊員がこの成行だったりして・・・と思ったり。

時代が時代なら「ATG(アート・シアター・ギルド)」辺りで映像化とかしてただろうな。
「荒野の七人」みたいなリメイクとしても有りだ。和製「タクシードライバー」として(タクシー出てこないけど、そこは置いといて)これこそ実写化で見たいと思う程だ。

タクシードライバー (字幕版)
ロバート・デ・ニーロ
2013-11-26


ちなみにもう一つ「歌謡マンガ大全集」という企画もあり、こちらも同様に漫画家が思い入れのある歌謡曲をモチーフにしたアンソロジー作品集。個人的に収録作「大友克洋」の「上を向いて歩こう」と「きうちかずひろ」の「上海帰りのリル」はお気に入りだ。