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「ガンツ」や「犬屋敷」で話題の奥浩哉氏の中~短編作品を纏めたもの。
初期の代表作「HEN」のプロトタイプ版も収録されている。
完全版として装丁と「赤」「黒」で再発行されているが個人的に「黒」が好み。
その中でも表題になって収録されている「黒-KURO」を紹介したい。

あらすじ

主人公の男性、辰巳は32歳。どういった経緯なのかは記されていないが元モデルで美人な奥さんと結婚し元気な小学生の子供がいる。長く銀行に務め真面目で控えめな性格から今後役職を任されるのではと噂が経つ中、幸せで順風な生活を過ごしていた。

ある日辰巳の勤務する銀行が強盗集団に襲われてしまう。
本物のショットガンを持ち金を要求する犯人は居合わせた泣き喚く子供に銃口を向ける。
店内に隠れていた辰巳はそれを見過ごせず庇い代わりに大怪我を負う事になる。
犯人達はそのまま逃走に成功し辰巳は病院へ搬送された後2ヶ月の昏睡状態が続く。
目覚めるとそこには醜い怪物の姿に変貌した辰巳がいた。
病院を抜け出しその足で愛する家族の元に走り戻った辰巳だったが・・・。

タイトルの「黒」を表すかの様に人物の影にベタを多様。
そのコントラストがこれでもかと目に迫り入って来る。
怪物の辰巳が街に出て以降アクション映画ばりのカットや構図、展開が続く。
「漫画家は原稿用紙上で映画みたいな作品をも表現出来るんだ」と感じずには居られないだろう。
ちなみに怪物化した辰巳のデザイン等は「サム・ライミ」監督の映画作品「ダークマン」にインスパイアされたのかもしれないと連想してしまった。

ちなみに4話目の扉絵が個人的に好きでドブ川に佇む怪物「辰巳」の構図が素晴らしい。
誰しもが見た覚えのある、あの風景を採用した扉絵は是非ともカラーで見てみたい。
小道具のセンスも最高だ。
拾った小銭を持ち得た怪力で飛び道具に再使用するシーンは当時見た際痺れた。
後に「とある魔術の禁書目録」にてヒロインの一人御坂美琴が自身の超能力でゲームセンターのコインを指で弾き弾丸にするのを見た時真っ先に「黒」のこれが浮かんだのは言うまでもない。「COFFEE BEANS」キャップは製品化されたら俺は買うので作ってくれよ、MAJIDE!(MAGWIN調で)

物語の序盤でなぜこんな怪物の姿になったのか辰巳の周りに矢継ぎ早に不幸な事件が置るのかは判明する。悩んだ末自暴自棄になり行き場の無い街の中を彷徨い続ける。
怪物の姿になって以降、これまで以上に人間の側面にある「黒い」部分を目の当たりにする。
終盤、誰からも愛されない中たった一人で戦い抜くアメリカンニューシネマ張りの展開はこれ以上の孤独に追い打ちを掛ける展開で切ない。

絶望しか見えない景色の中すぐにも消えそうなか細い光の糸が現れる。糸、そう表現しておこう。
真っ黒な孤独の世界の中その糸と共に辰巳はこの先どうするのだろうと考えずにはいられない所で物語は終わる。個人的に「ガンツ」や「犬屋敷」よりも映像化で見てみたい作品である。




他の収録作品では自分の体内に同年代の女の子が寄生している生活を描く「宿」や問題作「観察日記」等も収録。どちらも敢えて人には勧めないが個人的にはとても「有り」で好きな作品群だ。